新宿駅

新宿駅に僕はいた。

どういう訳か僕は新宿駅から出られなくなった。

エスカレーターは全部下りに成っていて、無理矢理上がって行った仲間は氷浸けになり死んでしまった。


駅ビルに行く事は可能らしく、僕等はレストラン階にて酒を飲み、夜を明かす。

仲間の中には余りこの事態を深刻に考えていない者もいて、ガバガバと酒を飲む。

こんな生活を続けていたら、金が底をつくのも時間の問題だ。


ある時、ホームで偶然大学のクラスメートに会った。挨拶くらいはするが、親しくすることもない、そんな間柄だ。
彼女は好意も無ければ悪意も無い相手に見せる独特の作り笑いをして、「こんにちは。こんな所で何してるの?」と話しかけてきた。

知人に会うなどなかなかないチャンスだ。信じてはくれないだろうと思いながらも、僕は「新宿駅から出られない事」「出ようとしたら死ぬ事」「その為新宿駅内で生活している事」を話した。

彼女は作り笑いを辞め、こう言った。

「それは只の思い込み、と言う可能性は無いの?今聞いた限りでは矛盾は見付からなったけど、だからと言って貴方の言う事が正しいという証拠も無いわ。」

彼女の言った通りだった。
駅から出ようとすると死ぬ事を証明する為には、仲間の誰かか自分が死んで見せなければならない。勿論そんな事率先してやって見せる者などいないのだ。